■生命―いのち―を支えるボランティア 小さな力を持ち寄って、我らの街にホスピスを!

今回の対談は、東松山市内で蛭川歯科医院の院長をされていらっしゃる、蛭川和省(ひるかわ かすみ)さんです。蛭川さんは前回対談しました鈴木さんと同様で私の熊谷高等学校の先輩です。また、東松山むさしロータリークラブの会員でもあり毎週お会いしています。

 蛭川さんは、熊谷高校卒業後、同志社大学に進学、その後30歳を過ぎてから日本歯科大学に行き、現在歯科医をされているという変わり種です。現在は、ホスピス(ターミナルケア)の研究会、特定非営利活動法人 ホスピス研究会「さいどばいさいど」(以下「さいどばいさいど」)の代表理事をされていらっしゃいます。今回は「さいどばいさいど」の活動を中心にお話をさせていただきました。
 

森田 
蛭川さんとはロータリークラブで毎週お会いしていますが、お互い忙しく、今回のようにゆっくり話をするのは初めてですね。今日はよろしくお願いいたします。
 
以前より「さいどばいさいど」の活動には大変に興味があると同時に、地域にとって必要な活動だと思っていました。今までも講演会や総会などの活動に参加させていただき、何か私にお手伝いできることがあれば是非協力させていただきたいと考えていました。ところで、現在の「さいどばいさいど」の具体的な活動はどのようなものでしょうか。

蛭川 
森田さんには日頃何かとお世話になり、会員一同とても感謝しております。
 
現在の私たちの活動はまず、第一に市民の皆さんにホスピスのことを理解していただくための啓発活動として講演会や勉強会の開催をすることです。
 

2点目として、具体的に地域にホスピスケアの充実を目指すために、行政や医師会などへのアピールをおこなっています。この成果として、私たちがアピールしてきたことが理解され、東松山市が主催となり、ターミナルケア検討委員会が設立されました。現在会員3名が委員として参加して活動しています。

3点目として、ホスピスに関する情報が地域レベルでは無いため、情報の提供と会員のコミュニケーションを図る目的で、ニューズレターの発行とインターネットホームページの運営を行っています。ホームページでは、ホスピスに関する相談室を作り、情報の提供なども行っています。大きく分けるとこの3つが現在の活動です。

森田
 
私だけでなく、政治家は誰もが、地域住民が「安心して暮らせるまちづくり」ということを考えていると思うのですが、ホスピスは「安心して暮らせるまち」の要件には欠かせない存在だと思います。しかし、ニーズはあっても現状を見ると、埼玉県内に2つの医療機関がホスピス病棟を設置しているだけということを、いつも不思議に思っていました。

蛭川 
医療には大きく3つの役割があると思います。一つは、治療です。けがや病気を治すことです。二つ目は、予防です。生活習慣病などにならないための指導などです。そして3つ目として、苦痛の緩和があると思います。末期がんの患者さんなど、もうどうにも治療の見込みのない方に対して無駄な治療をするのではなく、人間的な最後を迎えるために苦痛の緩和を行うことです。現在の医療を見ると、治療と予防に関しては欧米並に進んでいると思いますが、3つ目の苦痛の緩和に関して、日本は大変に遅れているようです。

森田
 
初歩的な質問かもしれませんが、ホスピスという医療に関する問題にNPO団体が取り組まなければならない背景は、どんなところにあるのですか。

蛭川 
現在の医療が治療中心で来たことが大きな原因だと思います。ホスピスのことを敗北の医療などと表現されていた時期もありました。市民が必要と思っているものと、医療界が目指しているものにズレがあるのだと思います。その結果、医療を受ける側である市民がホスピスの必要性を訴えるという現象が起こっているのではないでしょうか。
 
また、ホスピスケアは単に身体的な痛みを取るだけではなく、精神的な苦痛、心の問題、宗教的な側面を持つ問題などもケアの中に含まれますから、そのような教育を受けてこなかった医療関係者には理解しがたい部分もあるのではないかと思います。これは日本だけではなく欧米の長い歴史の中で、今の日本と同じような時代もありました。ホスピスに関してはどの国でも市民運動から起り、その訴えが理解されて整備されたという歴史があります。

森田 
「さいどばいさいど」の新しい計画などはあるのでしょうか。

蛭川 
現在、何とか年内に設立させたいと思っているものに「遺族の会」と「患者の会」があります。会員の中には身内をがんで亡くされた方がいらっしゃいます。また、家族を亡くされた悲しみから抜け出すことができない、というような内容の相談も多く受けることがあります。同じような苦しみや悲しみを体験した人が集まる「遺族の会」は必要なものと考えています。また、「患者の会」に関しては、実は私自身ががんの体験者ということもあり、常々必要と考えていました。がんの不安は、実際になったものでないと理解できない部分があります。
 
また、毎年行っているイベントとして、ホスピス講演会を10月に開催します。今までは講師として医療関係者を中心におこなってきましたが、今回は「生命―いのち―」そのものを考えてみようということで、長野県にある「無言館」という美術館の館長である、窪島誠一郎(くぼしま せいいちろう)さんの講演会を企画しています。無言館は、戦争で亡くなった画家を目指していた画学生たちの絵を集めたところで、全国から注目されています。戦争という不可抗力で世を去らなくてはならなかった画学生と、末期がんの患者さんには多くの共通点があります。大変に素晴らしい講演会になると思い、期待しております。

森田 
ところで少し話が変わりますが、今、埼玉県では、上田知事のリーダーシップのもとに、NPOなどの市民団体と行政とがタイアップして地域サービスの向上を目指すために様々な事業を行っています。NPO支援基金を創ったり、NPOと行政で協働して新しい事業を起こしたりしています。蛭川さんはどのように考えますか。

蛭川 
私は上田知事の考えに大賛成です。
一昨年私たちはNPOを取得したのですが、現在の最大のテーマは資金面の充実です。東松山市では環境問題や介護などの活動に補助金などが出るようになったようですが、私たちのような医療関係のNPOは難しいようです。ホスピスというものを理解すれば、市民の力が必要不可欠であることは理解していただけると思うのですが、まだその段階まで来ていません。


リラックスしてお話をしたいと思い、食事をしながらの対談でした。

活動を理解している方や、現実に病気で苦しんでいる方からの期待やニーズはとても大きいのですが、なかなか応えることができずジレンマに陥ることもあります。運営資金の中心は会員からの年会費3,000円ですから、事務所を持つことも難しく、その活動のほとんどが会員の手弁当で行われています。しかし、実際に取り組んでいるのは、人の生死を扱うとてもシビアなものです。現在のような環境ではなかなか思うような活動はできません。会員の信念だけで持っているような所があるわけですね。やはり、行政関係の皆さんが私たちの活動を理解していただき、活動の支援をしていただくことを望んでいます。

森田
 
蛭川さんはじめ、メンバーの皆さんのご苦労には頭が下がります。しかし、あまり悲観的になることはないと思います。上田知事のNPOに対する注目度と期待感はとても大きなもので、埼玉県の政策の中心的な柱の一つとなっています。
 
行政には行政のやるべき事があり、企業には企業のやるべきことがあります。同様にNPOにしかできないことがあります。それは現代の社会に必要なものだと私は思っています。一人の政治家としてできることには限界がありますが、私のやるべきことは、より皆さんが活動しやすい環境づくりをすることだと思います。本日はありがとうございました。


あとがき
 
今回の対談で、ホスピスに関してまだ多くのことを学ぶ必要があることを実感しました。
 
国立がんセンターの資料によると、平成14年の日本のがん死亡者数は304,568人で、それは日本の総死亡者数の31%となり、死因のトップです。その中でホスピスケアの必要な痛みの出る患者さんの数は全体の約70%、213,197人ということです。ところが、現在日本全国の厚生労働省が認可したホスピスの総数は108施設、ベッド数は2,042病床しかありません。ホスピスケアが必要な213,197人対して2,042のベッドしか無いのです。このような現実を知って愕然としました。
 
埼玉県内のホスピスは現在2施設、43病床、県内のがんによる死亡者数は13,769 人です。この数字から見ても、各地域へのホスピスの設置は急務ではないでしょうか。このような点からも、「さいどばいさいど」の取り組みはとても重要なものだと思いました。

特定非営利法人 ホスピス研究会 さいどばいさいど
http://www.hospice-care.net/  

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