蛭川
医療には大きく3つの役割があると思います。一つは、治療です。けがや病気を治すことです。二つ目は、予防です。生活習慣病などにならないための指導などです。そして3つ目として、苦痛の緩和があると思います。末期がんの患者さんなど、もうどうにも治療の見込みのない方に対して無駄な治療をするのではなく、人間的な最後を迎えるために苦痛の緩和を行うことです。現在の医療を見ると、治療と予防に関しては欧米並に進んでいると思いますが、3つ目の苦痛の緩和に関して、日本は大変に遅れているようです。
森田
初歩的な質問かもしれませんが、ホスピスという医療に関する問題にNPO団体が取り組まなければならない背景は、どんなところにあるのですか。
蛭川
現在の医療が治療中心で来たことが大きな原因だと思います。ホスピスのことを敗北の医療などと表現されていた時期もありました。市民が必要と思っているものと、医療界が目指しているものにズレがあるのだと思います。その結果、医療を受ける側である市民がホスピスの必要性を訴えるという現象が起こっているのではないでしょうか。
また、ホスピスケアは単に身体的な痛みを取るだけではなく、精神的な苦痛、心の問題、宗教的な側面を持つ問題などもケアの中に含まれますから、そのような教育を受けてこなかった医療関係者には理解しがたい部分もあるのではないかと思います。これは日本だけではなく欧米の長い歴史の中で、今の日本と同じような時代もありました。ホスピスに関してはどの国でも市民運動から起り、その訴えが理解されて整備されたという歴史があります。
森田
「さいどばいさいど」の新しい計画などはあるのでしょうか。
蛭川
現在、何とか年内に設立させたいと思っているものに「遺族の会」と「患者の会」があります。会員の中には身内をがんで亡くされた方がいらっしゃいます。また、家族を亡くされた悲しみから抜け出すことができない、というような内容の相談も多く受けることがあります。同じような苦しみや悲しみを体験した人が集まる「遺族の会」は必要なものと考えています。また、「患者の会」に関しては、実は私自身ががんの体験者ということもあり、常々必要と考えていました。がんの不安は、実際になったものでないと理解できない部分があります。
また、毎年行っているイベントとして、ホスピス講演会を10月に開催します。今までは講師として医療関係者を中心におこなってきましたが、今回は「生命―いのち―」そのものを考えてみようということで、長野県にある「無言館」という美術館の館長である、窪島誠一郎(くぼしま せいいちろう)さんの講演会を企画しています。無言館は、戦争で亡くなった画家を目指していた画学生たちの絵を集めたところで、全国から注目されています。戦争という不可抗力で世を去らなくてはならなかった画学生と、末期がんの患者さんには多くの共通点があります。大変に素晴らしい講演会になると思い、期待しております。
|